音と私

忘れないように。語彙力皆無。

ヒグチアイ 「悲しい歌がある理由」を聴いて

2021.09.08 デジタルリリース

ヒグチアイ「悲しい歌がある理由」

 

「働く女性」をテーマにした三ヶ月連続リリースの第一弾!

 

タイトルからして聴くのにとても勇気のいる曲だなと思った。ジャケット写真もなんとも胸をざわつかせる。曲を聴く前の段階でこんなにも感じるものがあるというのはすごいことだ。

 

冒頭の歌詞で、ああ好きだなと思ったし、惹きつけられた。ここからこの曲はどんなふうに展開して物語が始まっていくのだろうか、と。ヒグチアイさんの言葉の選び方や紡ぎ方は小説のようで想像力を掻き立てては心にグサグサと刺さる。今作は何人も登場人物がいるようにも思える様々なエピソードのようなその歌詞に、自分の経験や感情が当てはまりやすくなって共感度が高くなっているのではないだろうか。

 

結婚したいと言っている本当の理由は 結婚したいと思われるほど愛されたいってこと〜誰でもないわたしを必要と言ってよ

ここの部分とか今の自分に重なりまくって頷きが止まらなかった。ステータスの為に結婚する人もいるかもしれないけど、私はたったひとつこれ。

 

悲しい歌を聴くと自分の身に起きた悲しかったことを思い出して、歌詞の通りに古傷を庇っているかさぶたを剥がされるような、もう一度斬りつけられてしまうような、それくらい痛みを伴うものでもあるのだけど、その痛みが昔の痛みと違うことや、もう痛くないでしょ?というメッセージが込められていて、あ、本当だな、あの時の痛みとは全然違ってる…ということに気付かされた。

どうしようもないくらいに深く傷ついた過去があって、過去に戻れるのならば絶対にあの時っていうところがあって、だけど過去に戻りようがないし、あの時の自分の判断が許せなくて仕方なかった。今もその痛みをずっと抱えているつもりだったけど、この曲を聴いて、そうじゃないな。と。最後のほうに続く歌詞にとても救われた。

 

同じ痛みじゃない 何度思い出すたび向き合ってきたんだ あなたはずっと強くなった

 

皮膚は厚くなって 残る傷跡はほら優しさに変わってる もう痛くないはずだよ もう許していいんだよ

 

ヒグチアイさんの歌は、普段表に出せない、誰にも話せない、心の奥底深いところにたったひとりで抱えている大きな大きな問題を代わりに吐き出してくれているような感覚になる。だからこそ、抉られてしまうけど、代弁者のようでスッキリもする。こんな自分でも良いんだよな?と思わせてもくれる。

 

ピアノの音色にヒグチアイさんの歌が合わさってとてもシンプルにストレートに伝わってくる素敵な曲だった。聴くまでに勇気のいる曲かもしれないけれど、何か痛みを抱えている人がいたらぜひ聴いてみてほしい。